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放送業界の大チョンボ タダ見し放題B-CASカード問題(3)B-CASカードの真の欠陥とは何か

 ←放送業界の大チョンボ タダ見し放題B-CASカード問題(2)B-CASカードはどこまで解析されたのか →保守派ずらりの新・常務委 胡主席「政権共倒れ」回避のためか
そもそもB-CASカードが解析された原因は、技術的な欠陥よりも、その技術の“運用”、つまりは使い方や日本のデジタル放送業界の体制の問題が大きいだろう。

まず、前にも述べた通りDRM技術には100%欠陥がある。DRM技術を売り込む業者は、まさか自社の製品に欠陥があるとは口が裂けても言えないが、欠陥のないDRM技術がどこにも存在しないことはコンピューター業界の常識である。たとえ一部のB-CASカードにバックドアという技術的な欠陥が存在していなくても、暗号化手段と鍵がカードの中に存在する以上は、解析されるのは時間の問題であった。そこを運用でカバーしなかったことが間違いだ。

また、B-CASカード特有の問題もある。クレジットカードやキャッシュカード、電子マネーであれば使用履歴がサーバーで集中管理されているため、不正使用の発見が比較的容易で、即座にカードを使用停止させることもできる。また、システムに欠陥が見つかっても、サーバー側の改良で対処できる場合が多い。しかし、B-CASカードの場合は放送を使ってデータを一方的に送信することしかできないので、同じような対処は不可能だ。そのため、欠陥が見つかれば非常に対処しにくいシステムと言える。

セキュリティというのは、技術だけでなく、社会的なリスクということも考慮に入れなければいけない。インターネットで言うならば、例えば有名人のブログのセキュリティと、ネットバンクのセキュリティとでは、そのリスクの大きさも性質も全く異なる。もし、その有名人が反感を買いやすい人物なら、ブログにいたずらをするために前者のセキュリティを突破されるリスクが高いだろう。

後者は他人の財産に手を付けることになるので、単なる悪ふざけで突破しようとする人はいないだろうが、真に悪意を持つ者により突破されてしまったときの被害は甚大だ。だから、前者と後者をごっちゃにして、例えばブログのセキュリティが破られたらネットバンクのセキュリティも破られるような仕組みにしておくのはナンセンスである。ところが、B-CASの場合はまさにこれをやってしまった。無料放送のDRMと、有料放送の視聴制限という全く別の目的のために、全く同じ技術を使ってスクランブルをかけたことだ。

放送のような無線通信技術の愛好者は全世界に散らばっているが、彼らには研究として他国の放送を受信する文化がある。また、報道機関や調査機関が情報収集のために他国の放送を受信している。受信状態を受信報告書にまとめて国際郵便で放送局に送ると、放送局はそのお礼として「ベリカード」と呼ばれるものを返す習慣もある。

もし、ある国の多くの国民が無料で受信しているのに、スクランブルをかけられている放送があればどうなるか。世界中の技術者に対して、スクランブルを突破してくれと言っているようなものである。しかも、日本の放送コンテンツは世界中で需要があるので、なおさらリスクが高い。

日本国内においても、著作物をコピーすることは、個人的な利用や、調査研究、報道目的であるのなら全くもって正当な行為だ。そして、B-CASというシステムの特性上、正当な行為のためにDRMを破ることと、有料放送の視聴制限を破ることとは紙一重だ。

B-CASカードを破る方法が明るみになったのは2012年になってからだが、実際はもっと以前、おそらくFriioでカードなしで地上波放送を見られるソフトが出回っていた2008年頃には何者かによって既に破られていたものと考えられる。問題が発覚しながら、4年も放置されてきたわけだ。

そして、2012年2月には書き換え済みのB-CASカードを「BLACK(ブラック) CAS(キャス)」という名前で販売する者も現れた。いずれも台湾で製造販売されており、日本国内で逮捕者が出た現在も堂々と販売されている。こんな形でも「狡猾な人が得をし、正直者は損をする」状況になっているのである。

日本はACTA(アクタ)(偽造品の取引の防止に関する国際協定)により海外でも取り締まりを可能にするべく動いているが、少なくとも放送について取り締まることは難しいと考えられる。冷戦時代を思い出せば分かると思うが、無料放送であれ有料放送であれ「国外の放送を受信したら逮捕される」というような制度が国際社会において受け入れられるということは、ちょっと考えづらいからだ。

電波に国境がない以上、本来なら放送においては発信する側が万全の対策をする責任がある。デジタル放送業界が、B-CASカードが破られた場合に対処するための現実的な手段を何も用意していなかったのであれば、B-CASというシステムの運用には、何重もの重大な欠陥があったということになる。

では、対処するための現実的な手段とは何だろう。ネットバンキングを利用した経験のある読者であれば、銀行から送られてきた「トークン」と呼ばれる乱数を生成する機器を使用したことがあるかも知れない。筆者が利用しているジャパンネット銀行がそうで、振込などの操作の度に1分おきにトークンに表示される乱数を入力する仕組みだ。このトークンには有効期限があり、5年毎に銀行から新しいトークンが送られてきて、古いトークンは使えなくなる。

もし、B-CASも同じようなシステムであれば、今のような事態は避けられただろう。内部の暗号化手段を入れ替えた新しいカードを利用者に届け、古いカードを無効にしてしまえば、また新しいカードの中身が解析されてしまうまでの時間稼ぎをすることが出来る。

今からそれをやればいいのかも知れないが、実はそれも至難の業だ。まず、カードの再発行費用を誰が負担するのかという問題がある。前述の銀行の例であれば、利用者の預貯金を運用することでその費用を捻出出来る。しかし、B-CASカードの場合、無料放送だけしか見ない視聴者は定期的に金銭を支払っているわけではない。有料放送だけであれば視聴料に上乗せすることもできただろうが、現状では視聴者に新たな負担を求めるか、あるいは別のところから捻出(ねんしゅつ)するしかない。

もし、新たな負担を求めるという選択をした場合、視聴者の反発は必至だろう。NHKの受信料拒否運動がますます勢いづくかも知れない。しかも、放送業界はB-CASカードというシステムの欠陥を認めて、視聴者に説明しなければならなくなる。今の放送業界に自らそのようなことが出来るようには見えない。

では、放送局やB-CAS社が費用を負担する場合はどうか。これも悪夢が待っている。B-CASカード、今までに約1億5000万枚が発行され、これは明らかに実際の視聴者数や受信機の数と乖離(かいり)している。カードを交換するにしても、このうち何枚を交換することになるのか分からない。

また、B-CAS社はカードの利用者を把握していないと言われる。すると、クレジットカードのように、新しいカードを送りつけて、古いカードを破棄してもらう方法を取ったとすれば、事実上タダでカードをばらまくのと同じことになってしまう。いずれにしても、新しいカードが全ての視聴者に行き届く保障はどこにもない。その状態で古いカードを無効とし、新しいカードでしか解除できない暗号を使って放送をしたらどうなるか。突然放送が見られなくなる世帯が続出するだろう。そのタイミングで大規模な災害でも起これば、取り返しのつかないことになる。

B-CASカードは受信機と一体?
さて、B-CAS社は本当にカードの利用者を把握していないのか。B-CAS社のホームページによればカード使用者変更の手続きが存在し、問い合わせ先電話番号が書かれている。そこで、実際にB-CASカードを入手して、使用者変更の手続きを行なってみた。ちなみに、フリーダイヤルではなく、210秒で10円の通話料金がかかる。また、最初にサービス向上のために会話は録音しますというアナウンスがされる。

「B-CASカードを譲り受けたので使用者変更の申請をしたいのですが」

「中古機器と一緒にB-CASカードを譲り受けたということでよろしいでしょうか?」

「中古の機器とは別に、カードが余っているという人から譲り受けたのですが」

「少々お待ち頂けますか」

そうして待つこと1分半、こんな答えが返ってきた。

「本来ですね、B-CASカード単品で譲り受けるという行為はお控えいただいているのですが。基本的には、不要になったB-CASカードはB-CAS社にお返しいただいて、中古機器をご購入された方には、改めてご購入をお願いしているんですね」

それなら、なぜ使用者変更の手続きが存在するのか。よく聞いてみると、約款上カードは機器と一緒に譲渡することになっており、今回のようなケースでは一旦カードを返却して、2000円で再発行するということになるという。

しかし、何だかんだで「今回に限って」ということで使用者変更の手続きをしてもらえた。カードの番号と住所と電話番号を伝えると、後日約款を送付するということになり、最後に「いらなくなったら返却していただくようにおねがいしますね。連絡すれば返却用封筒をお送りしますので」と念を押された。

どうだろう? 何となく釈然としないものを感じたのではないだろうか。もしカードと機器が一緒に譲渡されることになっているのであれば、カードと機器は1対1で結び付けられることになる。そして、機器の譲渡と一緒に利用者変更が必要で、その度に住所と電話番号を聞かれるのであれば、B-CAS社は受信機に1台1台番号をつけて、個人を追跡可能ということになる。そして、B-CASの仕組みの上では、いざとなれば特定の受信機への放送を止めてしまうこともできるのである。どこの全体主義国家の話だろうかと思ってしまう。

では、カードを返却してまた再発行するとなると、あまりに非効率だ。使用者変更の手続きが存在し、現に私の場合「今回に限って」手続きを受け付けてもらえたのだから、2000円を支払うのは馬鹿らしいと誰でも思ってしまうはずだ。

もちろん、電器店で受信機を買っても個人情報を登録することはないし、B-CASカード単品や、カードが内蔵された受信機が堂々と中古で売買されており、誰もB-CAS社に対して使用者変更の手続きなどしていないことは読者もご承知のとおりだ。B-CAS社が約款で定めている「タテマエ」と実態が完全に乖離しているのだ。

さて、数日後B-CAS社から約款が届いた。しかし、約款にはB-CASカードを受信機と一緒に譲渡しなければいけないということはどこにも書かれていない。禁止事項としては、DRMに対応していない機器で使用してはいけないとされているだけで、使用者変更の手続きについても書かれている。

B-CAS社に、約款の内容についてさらに問い詰めてみると、結局は「約款上は単品での譲渡はできないわけではないですが、あまりお勧めはしない」ということだった。そして、2011年3月まではカードの利用者の情報を登録していたが、現在はあくまで利用者変更ということで、利用者の情報までは把握していないということだった。つまり、利用者変更といっても約款を送るという、言わば儀式のようなものに過ぎないのだ。

しかし、まだ疑問は残る。B-CAS社に電話した時、約款の送付には必要ないはずのカードの番号を聞かれたし、しかも会話の内容を録音しているということだった。この点についてB-CAS社に聞いてみると、録音内容は1年間記録されているという。ということは、B-CAS社は少なくとも音声として利用者の情報を1年間保持しているということになる。

繰り返しになるが、これらはあくまでタテマエだ。実際は誰も使用者変更などしていないのだから。しかし、使用者変更をしないことはB-CAS社の言い分では約款違反になるわけで、多くの視聴者が不正行為を行なっているということになる。果たして、こんな状態でB-CAS社の約款が有効と言えるのだろうか。

そして、このB-CASカード、管理もズサンである。カードは受信機のメーカーがB-CASから購入して、受信機と一緒に電器店に卸す仕組みになっている。もちろん、カードがメーカーに渡った時点で、B-CAS社はそのカードの行方を把握していない。つまり事実上はB-CAS社がカードを貸与しているわけではなくて、文字通り売り切っているのである。

さらに、「白B-CASカード」というものがある。これは電器店が店頭で受信機を展示販売するためにあるものだ。このカードの普通のカードとの違いは、例えば普通のカードではNHKの衛星放送を料金を払わずに見ていると、契約を促すテロップが表示されるが、白B-CASカードではそれが出ない。そのため、本来は電器店の展示品だけに使われて、一般には出回らないはずのものだが、堂々とネットオークションで売られていることがある。

そのカラクリについて、ある電器店の店員に聞いてみると、こういうことだった。

「あれはメーカーから電器店に送られてくるんですよ。貸し出されている? そんなことはないですよ。送られてきたら、あとは放ったらかしです。商品の入れ替えの時にカードが余るので、大抵は廃棄してしまうのですが、店員が持って帰ることもありますね」

さらに、声を潜めてこう語る。

「大体、テレビの流通なんていい加減なもんですよ。メーカーが電器店に卸した製品を、なぜかメーカーが買い戻して、また出荷するなんてことをやってます。まあ、出荷台数の水増しでしょうね」

ということは、実際の受信機の数と「出荷台数」が一致していないこともあるわけで、これなら余剰のB-CASカードが多数出回っても不思議ではない。

“見せしめ逮捕”以外に対策はあるのだろうか
電波を発信するという行為には、法律や国際条約によって様々な制約がある。無秩序に電波が発信されてしまうと、混信によりまともに電波を利用できなくなってしまうからだ。そして何より、取り締まりには実効性がある。電波の発信源を割り出すことは技術的にはたやすいことで、違法に電波が発信されていれば、その現場を押さえることが出来る。

それに対して、電波を受信する行為は自由度が高い。憲法で「通信の秘密」があるためか、一応電波法には特定の相手に向けた無線通信を「傍受(ぼうじゅ)してその存在若しくは内容を漏らし又はこれを窃用(せつよう)してはならない」という定めがあるが、これも受信すること自体は禁止していない。電波は国境も関係なくどこにでも飛んでいき、受信するだけであれば、誰がどこで受信したかということを特定することは技術的に不可能だからだ。つまり、取り締まりの実効性がほとんどない。

冒頭で述べた「電磁的記録不正作出・同供用」という容疑にしても、B-CASカードを書き換えて使ったことを公言しなければ、誰にも分からない。特にネットワーク機器にもつながっておらず、純粋に放送を受信するだけの機器を使っていれば、家宅捜索でもされない限り、絶対に分からない。視聴した後に番組を録画せずカードを処分してしまえば、証拠も残らない。さらに、パソコンの中身をすべて暗号化した状態でSoftCASを使えばやりたい放題だ。これらの行為を推奨するわけではないが、紛れもない事実なのだ。

欠陥法として有名なものに、かつてのアメリカの禁酒法がある。この法律はほとんどの人が守らなかったので取り締まりに実効性がなく、“法律を破る行為”の需要があまりに高かったので、違法行為を行うことが当たり前になり、かえって法秩序の崩壊を招いた。B-CASカードの問題も、それに近い状態になりつつある。

本質的に安全でない技術を、一般の人が理解できないのをいいことに、誰かが無理やり押し付けたのではないか。乗っかった人も実は理解できていないのに、理解したつもりになって過信した面もあるのではないか。そして、欠陥を知る技術者がそのことを言い出せないか、あるいは言っても誰も聞く耳を持たないような状態に陥っていたのではないか。私の心配は全くの想像で、杞憂(きゆう)なのだろうか。

無料放送と有料放送に同じ仕組みでセキュリティをかけたことが問題の原因の1つであることは前に述べたとおりだ。これに関しては、実は改善がはかられつつある。2011年10月31日に総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会(第60回)」で「新コンテンツ権利保護方式(新方式)」と呼ばれるものが発表された。

これは、地上波デジタル放送ではB-CASカードを廃止し、スクランブルの解除のための鍵を受信機の中に内蔵してしまおうというものだ。鍵は相変わらずB-CAS社が管理するが、受信機メーカーは別の社団法人(地上放送RMP管理センター)を通じて鍵を受け取るという仕組みだ。新方式は2012年7月末から関東地方を中心に徐々に始まり、2013年4月に全国で運用開始されることになっている。

しかし、新方式についても課題が多い。現行のB-CASカードを使った機器をいきなり使えなくしてしまうことはできないので、当分は旧方式と新方式が併存することになるが、では、いつ旧方式を廃止するのかということまでは決まっていない。それまでは、タダ見できる現状は変わらない。もちろん、新しい方式が破られない保障はどこにもない。むしろ、また破られてしまう可能性が高いだろう。

一番の被害者は、契約しなくてもタダ見できるような欠陥システムに料金を払わされ続ける有料放送の契約者だろう。しかし、無料放送のスクランブルを解除し、有料放送のスクランブル方式を変え、有料放送の事業者が新しいカードを契約者の元に届ければ一気に解決するはずだ。当然、そうすれば無料放送のDRMは無効になる(もちろん事実上DRMはとっくに破られているので形式的なものだ)が、CMを収益源としている無料放送の事業者にとっては、そのことによる損害はゼロに等しい。強いて言えば当初からDRMにこだわってきた放送業界の“メンツ”の問題に過ぎないだろう。

そもそも技術の欠陥と運用のまずさが原因であるのに、それを取り繕うかのようにDRMを解除する行為を法律でガチガチに縛るために著作権法、不正競争防止法の改正が次々と行われている。結果として、放送の受信のみならず国民全体にとってデジタルコンテンツを利用する自由が狭められていく動きは、当分おさまりそうにない。放送業界のメンツは、かつて冷戦の終結にもつながった“放送を受信する自由”よりも、重いものなのだろうか。

なお、2012年8月30日に共同通信の記事「料デジタル放送カード刷新へ 「タダ見」根絶狙い」によれば、有料放送の事業者がセキュリティー対策を強化した新しいカードを配布することを検討しているという。おそらくカードの書き換えはされなくなると思うが、SoftCASへの対策はどうするのかなど、具体的にどのような強化が行われるのかは不明である。いずれにしても、地上波デジタル放送のスクランブルが事実上破られた状態は変わらないと考えられる。

一方、京都大学関係者によれば、多田光宏氏は現在保釈されており、大学は処分を検討しているものの、本人は裁判では争う意向であるという。2012年11月12日現在、公判がいつ開かれるかは未定である。


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